横浜青葉区発 「提案型市民参加」のまちづくり
本フォーラムの前身「青葉まちづくり研究会の活動
私たちの意見
私たちの試み~横浜市青葉区での市民参加のまちづくり
市民提案版マスタープランの闘い
青葉区民まちづくり会議 代表
青葉区「まちづくり指針」策定委員
鈴木 実
プロフィール: 建築家。1955年東京都港区生まれ。日本大学大学院理工学研究所建築学専攻科修士課程終了。現在青葉区在住。同区内で一級建築士事務所スタジオM2自営。一級建築士。工学修士。横浜市まちづくりコーディネーター。横浜建築事務所協会所属。学生時代に世田谷のまちづくりの一環に携わって以来、住民として多くのまちづくり活動に携わる。
はじめに:
横浜市は、現在全国に12ある政令指定都市のひとつであることはご承知だと思います。また神奈川県下では、お隣の川崎市がやはり政令指定都市になっています。
私の居住する横浜市青葉区は、東急田園都市線により渋谷まで30分強の通勤通学圏にあるため、その住民特性を称して「横浜都民」と言われることがあります。
「まちづくり」を考えるときにこの「横浜都民」という特性が、良い意味でも悪い意味でも姿をあらわしてきます。
「青葉区」は、人口が27万人もありますが、横浜市の一行政区単位でしかありません。しかしながら、「横浜都民」といわれる住民は、横浜市の区を東京23区と同じ権限を持つ特別区と勘違いをしている向きがあります。(つまり、住民が行政に対しての理解が少ないと同時に、行政のアピールが足りない)
その青葉区で行なわれた「都市計画マスタープラン・青葉区プラン」の素案づくりは他の市町村で考えれば地域単位の計画でしか過ぎません。しかも悪いことには、横浜市の行政施策にどのように反映されるか非常にあいまいな存在でもありました。
つまり、策定されてもその効力に関しての担保力があいまいな存在だったわけです。
きれいな言葉だけ取り上げられて、内容的に骨抜きになる可能性はつねにありました。
この試みに参加した人たちは、「どうせなら実現可能な提案を市民からしたい」という思いのある人たちや、「これを機会に行政に物申す」という思いのあるグループなどが入り混じって参加していました。
昨年度行なわれた私たちの試みである、青葉区民まちづくり企画「次世代の贈り物」は、同時並行して行なわれていた行政版の「都市計画マスタープラン・青葉区プラン」への提案という形で最終的には終結いたしましたが、それに至る過程は、参加した住民同士の、まさに表題のような「市民提案版マスタープランの闘い」であったと思います。
1:横浜市青葉区での「都市計画マスタープラン・青葉区プラン」での行政の試み(欠点)
行政版の「都市計画マスタープラン・青葉区プラン」(「青葉区まちづくり指針」(案)と呼ぶ)は、尾崎青葉区長を含む区内在住在勤の有識者や各種団体の代表者など21名によって構成された「策定委員会」によって検討されていきました。これに対し区民の意見を徴収する存在として「青葉区民まちづくり会議」という公募で参加した区民の存在がありました。
この「区民まちづくり会議」の存在意義や目的が実にあいまいだった様に、参加した住民は感じたと思います。(策定委員会の問題点は、ここで触れることは避けます)
その原因は、以下のようなことだと思います。
1.公募に応募した全員(65名)がスタッフになってしまった。
2.スタッフ間の意思の統一や、スタンスについての統一についやされる時間が無く、活動に入ってしまった。
3.都市計画マスタープラン、あるいは青葉区プランの意味などの説明がほとんどなかった。(私たちは、何をやるの状態だったわけです。)
最終的に「青葉区民まちづくり企画」というものをまとめるという事は示されましたが、その内容方向性に関しては、行政側の統一見解は最後まで揺らいでいました。
悪い表現をすると、「住民意見を聴取したような形だけを作れれば良い」、あるいは「住民の行政に対するガス抜きの場になれば良い」という考えもあったのかもしれません。
2:横浜市青葉区での「都市計画マスタープラン・青葉区プラン」での行政の試み(長所)
今回の行政の試みは、色々特筆すべき長所というべきものもありました。
それは以下のような事柄でしょう。
1.住民の運営する「区民まちづくり会議」に関して、その運営一切は住民側にゆだねられました。
2.住民側がいつでも利用できる場所を提供していただきました。
3.区民まちづくり会議の作製していった「策定委員会」に対しての二度に渡る提案に関して、その内容に関しては「青葉区民まちづくり会議」にまかされました。
4.「青葉区民まちづくり企画」に関しても、その内容に関しては「青葉区民まちづくり会議」にまかされました。
つまり検閲作業は、皆無だったのです。
(ただし、法律や条例に関しての誤りなどのチェックは行なっていただきました。)
5.住民提案を、行政版の「青葉区まちづくり指針案」に併記していただきました。
考えればなんと大胆な試みでしょう。担当者のご努力に、改めて感謝します。
3:今回の我々に与えられた課題と、その解決に向けての努力
検閲作業が皆無であり、かつその方向性さえも住民側に任されたことにより、参加した住民側に与えられた課題が生じてきましたと考えるメンバーが出てきました。
それは、「住民同士で合意形成ができるか?」という課題と、「住民が行政に対して、有効な施策・政策を提言できるか?」という課題でありました。そして、これは「住民参加」に対する本来的な問いかけでもあったと思います。
有識者や行政マンの中で、「住民」は「行政」の出来る事も出来ない事もわからずに勝手に物をいう存在であるから、「住民参加」は公聴会で十分であるというご意見があります。これは時代の流れに逆行する事柄かもしれませんが、私は、ある意味真実だと思います。
「住民」が「行政」の出来る事も出来ない事もわからずに勝手に物をいう存在でありつづけるのであれば、「パートナーシップ(協働)によるまちづくりは不可能」だと考えます。
わたしたちは、「住民の役割」と「行政の役割」を理解し同じ土壌で意見を交わそうと考え、「カウンターパート」として存在しようとしましたが、「カウンターでなく協働であるべきだ」というご意見が多数ありました。その方たちに限って、「行政の出来る事も出来ない事もわからずに勝手に物をいう存在」であり、そのことは、「行政側」が、ある意味「住民参加の機会や範囲の縮小」を理由づける格好の存在であることをご理解していなかったように思います。
また、私たちの試みに対し「住民らしくない」あるいは「土建屋的な話題ばかりである」とのご意見が出ました。もっともなご意見です。
私たちは、従来ある「住民参加の方法あるいは提言・提案の方法」を覆す試みを目指したわけですから当然のことと思います。
私たちの、「住民間の合意システム」は別紙にてご説明いたしますが、公募によって選ばれたスタッフ全員がそれぞれ一票の権利を有していたため、その合意システムは当然のごとく、何重かのチェックとなり、実際の運営スタッフ側の努力は並々ならぬものがありました。策定委員会の席上で、何度も住民同士の合意はできているのかというご意見をいただきましたが、策定委員会よりもそのスタッフ間の意思の統一は行なわれたと考えます。しかしながら、皆さんのご意見を調整しなくてはいけない分、その主張は鈍くなったことは否めません。
ところで、詳しいお話は、直接お話させていただきますが、私たちのこの試みは、結果とすれば、コーディネーターが「恩田・元石川線の住民参加の道路づくり」に携わった野口さんであったから出来たともいえます。
4:今回の活動を通して気づいたこと
今回の活動を通じて気がついたことを、いくつかお話したいと思います。
1.ジェネレーションギャップとジェネレーション・ハラスメントが存在する。
2.電子メールの有効性の確認ができた反面、新しい差別が生じ始めている。
3.ホームページの掲示板や会議室の有効性が確認できた。(現役世代の参加には好都合の手法と考えるが、取り扱いを誤ると・・・)
4.相手の考えを聞く姿勢を持たない人たちへの対処方法が確立できなかった。
5.都市計画に関してのハードな話題を利用し、住民側のいうソフトを投影する手法の可能が少し見えてきた。
6.途中経過の公開の重要性と、広報の重要性に気がつかされた。
5:まちづくり会議の解散以後
最後にまちづくり会議の解散以後の様子を多少お知らせいたします。
1.自然環境の保護を考える人たちが中心となり、現在残すべき青葉区の自然環境を考えるグループが活動をし始めました。これは、既存のいくつかのグループが横断的に活動をはじめています。
2.行政施策に乗せることで、防災からまちづくりを考えようというグループが立ち上がりつつあります。
3.リサイクルから環境問題を考え、実践していこうというグループが生まれ始めました。
4.子育て支援を高齢者の立場から考えようという試みが行なわれ始めています。
5.現在、執筆スタッフによって今回の活動の総括が進められています。